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映画監督・蔦哲一朗の素晴らしき映画の世界|

素晴らしき映画の世界|映画監督・蔦哲一朗のこれおすすめです! Vol.3

Vol.3

今回、徳島県出身の映画監督、蔦哲一朗さんが取り上げるのは、上田慎一郎監督の「カメラを止めるな!」と、三宅唱監督の「きみの鳥はうたえる」の2作品。どちらも話題の作品ですが、蔦監督はこれらをどのように見るのでしょうか!?

 

・『カメラを止めるな!』 上田信一郎監督(日本/2017)

 

・『きみの鳥はうたえる』 三宅唱監督(日本/2018)


『カメラを止めるな!』

(C)ENBUゼミナール

 ようやく今年一番の話題作である『カメラを止めるな!』(以後『カメ止め』)を観た。「確かに面白いけど・・・」という一部の方々の感想をそのまま私の感想とさせていただくことにしよう。上田慎一郎監督は、現在34歳の若手監督である。うむ、私と同い年であるが、決して嫉妬から批判しているわけではないので、この後の上から目線にもご理解いただきたい。結論から先に言うと、映画も人生も多種多様なのだから、みんな自分のアンテナに引っかかる好きな映画を観ればいいというだけのお話になってくるのである。

(C)ENBUゼミナール

 『カメ止め』は300万円で制作した映画として、若者を中心とした世間やインディーズ映画業界では盛大にざわついているが、昔から映画に携わってきた業界人やシネフィルの方々は、この『カメ止め』旋風を対岸の火事として冷ややかに眺めているのではないだろうか。というのも、この社会現象が今後自分たちにとって大きく影響してくるわけではないことは承知しているからである。記憶にも新しい『君の名は(日本/2016)』同様、『カメ止め』旋風は、そういった意味では理解不能の現象としてもうすでに放置されている感はある。映画を作り続ける身としては、多少は向き合わなければならないような気もするが、どこか映画として認めていない部分が腹の底にはあるため、遠い異国の出来事として眺めている状況である。ただ、実際には、私にとって中野駅から新宿駅くらい(私の地元・徳島でいうと阿波池田駅から佃駅くらい)の凄く近い所で起きている出来事であるから、他の若手監督のように次回作への制作意欲を掻き立てられなければならないのだが、今のところそれはなさそうだ。

 『カメ止め』の何が私にそうさせているのかを軸に書かせてもらうとすると、つまりは映画に何を求めるのかということになる。大半の方は、“娯楽性”であろうと思う。『カメ止め』はそれに長けた作品であるため、これほどの大ヒットを記録しているわけだが、映画にはもう一つの大きな特質である“無知の知”というものがある。他にもっと適切な言葉があるような気もするのだが、例えていうなら“深さ”と言えるかもしれない。この2つは、観終わった後にわかりやすく出てくる。前者は“スッキリ”であり、後者は“モヤモヤ”である。もちろん、その両方を兼ね備えている映画もあるので、それは“モヤスッキリ”としておこう。

(C)ENBUゼミナール

(C)ENBUゼミナール

 “スッキリ”系には『カメ止め』をはじめ、ハリウッドの大作が多い。邦画だと三谷幸喜監督の作品がそれに当たるだろうか。また、“モヤモヤ”系には映画祭で評価され賞を受賞しミニシアターなどで上映されるような映画が多いだろう。是枝裕和監督作品はこちらになる。“モヤスッキリ”となると難しいが、私見としては、レンタルビデオ店や名画座で長年愛されている作品は、比較的この傾向があるように思う。わかりやすいところでいうと『ショーシャンクの空に(アメリカ/1994)』や『ニュー・シネマ・パラダイス(イタリア/1988)』だろうか。更には1954年の『七人の侍』など、全盛期の黒澤明監督作もここに分類されることになる。これらは、バランスが良いのである。ただ、これはあくまでも私が主観的にみた分類であるため、必ずしも全員には当てはまらない。『カメ止め』にも十分、人間の奥深さを感じさせてくれる要素はあると思うので、“モヤスッキリ”に分類される方もいるはずである。

 要は何が言いたいのかというと、『カメ止め』は“スッキリ”系を求める観客のお腹は満たしてくれるが、“モヤモヤ”、“モヤスッキリ”を欲している観客には、どこか物足りなさを感じさせる。それが、冒頭の「確かに面白いけど・・・」という感想になってくる。そして、同学年である上田監督の快進撃が、なぜ私の励みにはならないかというと、自分の映画は“モヤモヤ”系であることを自覚しているからである。『カメ止め』旋風は、私にとっては同じ映画ではあっても畑違いのことであり、今回騒いでいる方々には全く見向きもされないのがわかっているからだ。“モヤモヤ”系で騒いでくれる潜在的な観客たちがまだ世にいることがわかれば、多少は意欲が出るのだろうが、それが想像できない。さらに、前回のコラムで取り上げた“モヤモヤ”系の代表格である是枝監督の『万引き家族』も今年大ヒットしているわけだが、そちらは単純にパルムドール受賞の反響と予算をかけた宣伝効果の賜物であると思われる。そもそも『万引き家族』は今までの是枝監督作品に比べると全然“スッキリ”系の映画である。


 

(C)ENBUゼミナール

【ストーリー】

とある自主映画の撮影隊が山奥の廃墟でゾンビ映画を撮影していた。本物を求める監督は中々OKを出さずテイクは42テイクに達する。そんな中、撮影隊に本物のゾンビが襲いかかる!大喜びで撮影を続ける監督、次々とゾンビ化していく撮影隊の面々。

“37分ワンシーン・ワンカットで描くノンストップ・ゾンビサバイバル!”

・・・を撮ったヤツらの話。


 

【作品情報】

監督・脚本・編集:上田慎一郎

 

<出演>

濱津隆之 真魚 しゅはまはるみ 長屋和彰 細井学 市原洋 山崎俊太郎※ 大沢真一郎 竹原芳子 浅森咲希奈 吉田美紀 合田純奈 秋山ゆずき

※本来の「崎」は環境依存文字のため便宜上「崎」と表記しております。

 

撮影:曽根剛|録音:古茂田耕吉|助監督:中泉裕矢|特殊造形・メイク:下畑和秀|ヘアメイク:平林純子|制作:吉田幸之助|主題歌・メインテーマ:鈴木伸宏&伊藤翔磨|音楽:永井カイル|アソシエイトプロデューサー:児玉健太郎・牟田浩二|プロデューサー:市橋浩治

 

製作:ENBUゼミナール

配給:アスミック・エース=ENBUゼミナール

96分/16:9/2017年

(C)EMBUゼミナール


 

大ヒット上映中!

 

詳しくは、「カメラを止めるな!」のバナーをクリック、もしくは下記よりアクセスください。

 

⇒映画『カメラを止めるな!』公式サイトへ


きみの鳥はうたえる

(c)HAKODATE CINEMA IRIS

 では、本コラムの主旨である映画紹介として、今季オススメの“モヤモヤ”系映画は何かと言われれば、こちらも私と同学年である三宅唱監督の『きみの鳥はうたえる』(以後『きみ鳥』)などどうだろうか。今回は実は1984年生まれ縛りである。

(C)HAKODATE CINEMA IRIS

 『きみ鳥』は函館出身の作家・佐藤泰志の小説を映画化したものだ。佐藤泰志の作品はこれまで3本映画化されてきたが、監督がすべて違うにも関わらず、どれも未来の見えない若者たちを儚くも力強く描いた傑作たちである。本作もこれまでの3本に引けを取らない。地方都市・函館の空虚さが出演者を包み込み、何とも言えない空気感に釘付けになる。そして、それを作り出している撮影も照明も音楽もすべてが素晴らしい。一つ難点を挙げるとすれば、それらがすべてオシャレ過ぎて、なんかいけ好かないといったことだろうか。

(C)HAKODATE CINEMA IRIS

 柄本佑演じる主役の“僕”に、本来は感情移入できるはずなのだろうが、その“僕”もオシャレ過ぎて、どこか距離を感じてしまう。実際の地方都市には、あの“僕”のような若者は沢山いるだろうが、残念ながら私ではない。

 私は“僕”に誠実という言葉を強要しようとする“森口”という役のほうにどうしても感情移入してしまうのである。“森口”は主役の3人に比べるとかなりダサい存在として描かれるが、主人公の“僕”とは対象的に社会から逃げずに生きようとしている不器用な姿が、何か私の中に“モヤモヤ”としたものを残してくれた。たぶん、徳島の皆さんもこの“森口”という役には共感していただけるだろう。是非、それを確かめてもらいたい。

 

 私の知る限りでは、『きみ鳥』の評判は上々だ。もちろん『カメ止め』も、まだという方には劇場での鑑賞をオススメする。本作で映画が好きになってくれることには間違いないし、映画の道を志したい若者の背中を後押ししてくれることになるだろうから。 蔦哲一朗

(C)HAKODATE CINEMA IRIS

(C)HAKODATE CINEMA IRIS


 

(C)HAKODATE CINEMA IRIS

物 語

函館郊外の書店で働く「僕」(柄本佑)は、失業中の静雄(染谷将太)と小さなアパートで共同生活を送っていた。ある日、「僕」は同じ書店で働く佐知子(石橋静河)とふとしたきっかけで関係をもつ。彼女は店長の島田(萩原聖人)とも抜き差しならない関係にあるようだが、その日から、毎晩のようにアパートへ遊びに来るようになる。こうして、「僕」、佐知子、静雄の気ままな生活が始まった。夏の間、3 人は、毎晩のように酒を飲み、クラブへ出かけ、ビリヤードをする。佐知子と恋人同士のようにふるまいながら、お互いを束縛せず、静雄とふたりで出かけることを勧める「僕」。
そんなひと夏が終わろうとしている頃、みんなでキャンプに行くことを提案する静雄。しかし「僕」は、その誘いを断り、キャンプには静雄と佐知子のふたりで行くことになる。次第に気持ちが近づく静雄と佐知子。函館でじっと暑さに耐える「僕」。3 人の幸福な日々も終わりの気配を見せていた・・・。


 

(C)HAKODATE CINEMA IRIS

作品情報

函館シネマアイリス開館20周年記念作品

『きみの鳥はうたえる』


2018年/106分/2.35/カラー/5.1ch


出演|柄本佑 石橋静河 染谷将太 足立智充 山本亜依 柴田貴哉 水間ロン OMSB Hi'Spec 渡辺真起子 萩原聖人
脚本・監督|三宅唱
原作|佐藤泰志(『きみの鳥はうたえる』河出書房新社 / クレイン刊)
音楽|Hi'Spec
企画・製作・プロデュース|菅原和博
プロデューサー|松井宏
撮影|四宮秀俊
照明|秋山恵二郎
録音|川井崇満
美術|井上心平
助監督|松尾崇
ラインプロデューサー|城内政芳
アソシエイトプロデューサー|寺尾修一
衣裳|石原徳子
メイク|石川紗織
小道具|平野藍子
キャスティング|神林理央子
スチール|鈴木淳哉、石川崇子
制作主任|小林大地
製作|函館シネマアイリス
制作|Pigdom
配給|コピアポア・フィルム、函館シネマアイリス
宣伝|岩井秀世、大橋咲歩
(C)HAKODATE CINEMA IRIS

 

9月1日(土)より新宿武蔵野館、渋谷ユーロスペースほかロードショー! 以降全国順次公開

劇場情報などは下記をご覧ください。

映画『きみの鳥はうたえる』オフィシャルサイトへ


 

プロフィール

蔦哲一朗(つたてついちろう)
映画監督・1984年生まれ・徳島県出身


 祖父は、かつて甲子園で一世を風靡した徳島県立池田高校野球部の元監督・蔦文也。

 上京して映画を学び、13年に地元、徳島の祖谷(いや)地方を舞台にした映画「祖谷物語ーおくのひとー」を発表。東京国際映画祭をはじめ、ノルウェー・トロムソ国際映画祭で日本人初となるグランプリを受賞するなど、多くの映画祭に出品され話題となる。
 14年、個人として徳島県より阿波文化創造賞を受賞。16年、祖父・蔦文也のドキュメンタリー映画「蔦監督ー高校野球を変えた男の真実―」、徳島県の林業推進短編映画「林こずえの業」を発表。現在、新作長編映画準備中。

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