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映画監督・蔦哲一朗の素晴らしき映画の世界|

素晴らしき映画の世界|映画監督・蔦哲一朗のこれおすすめです! Vol.6

Vol.6


2年前のカンヌ国際映画祭で賞を分け合い、高い評価を得た2作品

何か盛り上がりに欠ける今年の映画業界ではあるが、ミニシアター系で最近観たオススメ映画となると、この2本はいかがだろうか。両作品とも、あの是枝裕和監督の『万引き家族』が最高賞となるパルム・ドールを受賞した2年前のカンヌ国際映画祭で、同じコンペティション部門にノミネートされ、賞を争ったヨーロッパ映画である。パルム・ドールは逃したものの『COLD WAR あの歌、2つの心』は監督賞、『幸福なラザロ』は脚本賞をそれぞれ分け合い、高い評価を得た作品だ。そんな2本が満を持して、今年日本公開されたのである。

最初にこの2本に共通して言えることは、タイプは違うが作家性の強い玄人向けシネフィル映画である。徳島にいた高校時代の私なら途中で睡魔に襲われていたかもしれないくらい、一見掴みどころのない話なのだが、映画を見続けて鍛えられた今となっては、この2本の持つ映画の力に惹き込まれ、終始画面に釘付けになるのである。

両作品とも演出も撮影も一級品であることは間違いない。その中でも何が一番素晴らしいかと言われれば、私は“観客に媚びない映画的時間の省略(使い方)”だと思う。2本とも大胆なまでに、ある意味で観客をからかっているかのように、アッサリと次の場面で時間と時代を飛ばしてしまう。それは普段、映画を観ている私たちの感覚では違和感のある時間の飛ばし方であるが、それはもちろん狙いであろう。では、なぜ敢えてそのような手法で映画を見せるのだろうか。

COLD WAR あの歌、2つの心

『COLD WAR あの歌、2つの心』

6/28(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開中
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配給:キノフィルムズ

『COLD WAR あの歌、2つの心』は、主人公の男と女が、第二次世界大戦後から冷戦にかけて何度となく、恋しては別れを繰り返す映画である。時代が移り変わるに連れて、男と女は色々なものを背負ったり失ったりしながら、変わらぬ愛を持ち続け、最後には無理心中してしまうわけだが、その出会いから死までの人生の中で、会わない期間が数年あったりしても、その間二人がどのように生きていたかを説明するような描写はほぼ存在しないのである。本来の恋愛ドラマだと、会えない期間の苦しんでいる姿を丁寧に描いて二人の愛の強さを更に高めて観客に感情移入させるのだが、この映画はそんなことはしない。二人が出会っている空間しか描かないのである。つまり、国により引き裂かれた後、その次のシーンで時代は変わっているが、すぐに二人はまた再会するシーンから始まるのである。そうなると観客は二人の会っていない期間の変化を画面に写るささやかな情報から汲み取るしかないのである。男が収監されていたり、女は他の男と結婚して子供がいたりと、お互いに色々な苦労があったことが画面から伝わってくるが、決してその苦労をダラダラと説明はしない。「だって好き同士の二人が会えいない期間なんて苦しいだけに決まってるじゃん」と言わんばかりに、必要最低限のものだけを描く卓越した構成力と演出だ。




どちらかというと、ドキュメンタリーの時間の使い方に近いのかもしれない。ドキュメンタリーは過去を撮ることができない。その場にいる被写体の言動からその人の生き様を伝ええていくのがドキュメンタリー手法だ。今回の作品もそれである。これはある意味では観客の想像力を信じた手法と言えるかもしれない。私はこの主人公たちの過去を無駄に説明しない手法の方が、観客それぞれの人生に沿った男と女の恋愛物語として感情移入しやすいのではないだろうかと思う。余白があるとも言える。我々は映画を見る際に無意識に想像している領域があって、それが自然と人物像や物語に影響を与えている可能性があるのだが、この映画はその領域が広い気がする。この映画が白黒映画である理由もその一つであろう。無駄のない映画の原点に戻ったような、この想像力を最大限に活かす作り方こそ、いま日本映画が一番見習うべき所であると思うのである。


COLD WAR あの歌、2つの心

監督:パヴェウ・パヴリコフスキ 脚本:パヴェウ・パヴリコフスキ、ヤヌシュ・グウォヴァツキ 

撮影:ウカシュ・ジャル

出演:ヨアンナ・クーリク、トマシュ・コット、アガタ・クレシャ、ボリス・シィツ、ジャンヌ・バリバール、セドリック・カーン 他


2018年/原題:ZIMNA WOJNA /ポーランド・イギリス・フランス/ ポーランド語・フランス語・ドイツ語・ロシア語 / モノクロ /スタンダード/5.1ch/88分/ DCP/ G / 日本語字幕:吉川美奈子  配給:キノフィルムズ/木下グループ 後援:ポーランド広報文化センター


幸福なラザロ



『幸福なラザロ』

Blu-ray&DVD 11/2(土)発売予定

DVD:\ 3,900+税


発売元:キノフィルムズ/木下グループ

販売元:ハピネット・メディアマーケティング

c 2018 tempesta srl ・ Amka Films Productions・ Ad Vitam Production ・ KNM ・ Pola Pandora RSI ・ Radiotelevisione svizzera・ Arte France Cinema ・ ZDF/ARTE

『幸福のラザロ』の映画的時間の使い方は、また『COLD WAR あの歌、2つの心』とは違って独特である。本作は、ある田舎の村人たちが描かれ、農民時代(前半)から、町で暮らす時代(後半)へと物語が移るのだが、主人公のラザロだけは、おかしなことにまったく歳を取らないのである。もちろん他の登場人物は十数年経った設定なので、役者が変わったり、老けメイクなんかをシッカリしているわけだが、純粋無垢なラザロだけは、なぜか昔の農民姿のまま、文明社会に現れるのである。それについて観客の納得できる説明は一切映画の中ではない。唯一あるのは、ラザロは神様になったと台詞があるだけだ。




観客に媚びない展開がこの映画でも成されているわけだが、一つ間違えれば、コメディになってしまう難しい物語だ。それを映画的なリアリティを持って見えるのは、一人だけ時空を越えずに存在するラザロの視点が、観客と同じ立場にいるからであろう。観客もラザロと一緒になぜこうなったのかと疑問を持ちながら後半を生きるのである。“過去の聖人とも言える人間を現代社会に来させ、その無垢な『眼』で世界を見て涙させる”という表現は本当に映画だからこそ成し得た素晴らしかったものだし、監督もたぶんこれがやりたくて本作を撮ったのだろう。この表現を違和感なく成立させた構成力が見事である。カンヌ国際映画祭の脚本賞は伊達ではないと改めて感心した傑作。でも、言葉だけでは何がなんだか、まったくラザロの不思議さが伝わらないと思うので、ぜひ劇場で見て確認して欲しい。

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