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映画監督・蔦哲一朗の素晴らしき映画の世界|

素晴らしき映画の世界|映画監督・蔦哲一朗のこれおすすめです! Vol.9

Vol.9


鉱 ARAGANE

鉱 ARAGANE

 ©film.factory/FieldRAIN

コロナ禍が続く日本で、ミニシアターの動員は厳しいままだが、シネコンでかかるエンターテイメント性の高い若者をターゲットにした映画やジブリのリバイバル上映はどうやら健闘しているようである。やはりこういう息苦しい状況の中では、暗くて考えされる系の作品よりは、ただ笑って泣けてスッキリする映画がより一層求められるのかもしれない。ならこのコラムでもその流れに乗っかってエンタメ性の高いものを選んだ方が良いのかなと思い、悩みに悩んだが、結局たどり着いたのは今回も私が好きなアート系映画になってしまったのである。性格上やはり自分が本当に良いと思うものしか書けなさそうだ。

ただ、今回紹介する映画は、本当にまだ世にはあまり知られていない、日本の映画界でも知る人ぞ知る作品と言ってもいいので、その貴重さに免じて許してもらいたい。監督は小田香。世界の映画祭でもまだ大きなタイトルは獲っていないものの、これから必ず評価されていく日本の若手監督である。ただ、日本の若手監督と言っても、すでに日本の枠には収まらないスケールと日本人離れした感覚の持ち主であり、私も『鉱 ARAGANE』を観たときは、その映像センスに衝撃を受け、嫉妬を通り越して、ただただその才能に酔いしれたのである。

©film.factory/FieldRAIN

©film.factory/FieldRAIN

©film.factory/FieldRAIN

©film.factory/FieldRAIN

実際に経歴としては、アメリカの大学で映像を学んだのち、ポーランドの巨匠であるタル・ベーラ監督が主宰する映画学校「film.factory」に招聘されて、映画の経験を積んできたようだ。タル・ベーラ監督といえば、『ニーチェの馬』を作った私が敬愛する監督の一人である。そんな視覚的な映画にこだわった大物に直に教えてもらえるなんて、羨ましすぎるとしか言いようがない。ただ、彼女の才能はそんな外部からの影響だけではなく、彼女がそれまでに培ってきた精神性や哲学の崇高さが、カメラを通して感じることができることである。しかもそれが、彼女が作った物語ではなく、ドキュメンタリーであるにも関わらず、である。

伝え忘れていたが、『鉱 ARAGANE』はボスニア・ヘルツェゴビナに実在するブレザ炭鉱で石炭をとる労働者たちの姿を撮ったドキュメンタリーである。暗闇の中、ヘッドライトが照らされて見えるところだけの映像が延々と流れる映画だ。しかし、その美しい闇と光の映像は、映画が光あっての芸術である根本的なことも感じさせてくれる。しかも映像が光の当たっている必要最低限の情報だけを伝えているようにみえて、周りの暗闇に潜む見えない所への想像力もかきたててくれる究極の映像と言って過言ではない。また、『鉱 ARAGANE』は、カメラも小田監督自身で回しているようなので、本当に彼女が感じた被写体への感動がそのまま画面に伝わってくるようである。その上、テレビやネット上で映像が飽和しているこの時代に、まだ見たこともない貴重な映像を、ユニークな撮り方で色々と見せてくれるのだから、視覚的な映画を最も好む私のような人間からすると、本当に至福の映画体験なのである。これがインターネット時代を超越する、次世代の才能なのだなと痛感させられる。

小田香の名前が轟くのもそう遠くなないだろう。実際に、今年PFF(ぴあフィルムフェスティバル)が新設したこれからを期待される監督に贈られる「第一回大島渚賞」に選ばれ、審査員の坂本龍一から太鼓判を押されたようだ。ただ、もちろん決してメインストリームな映画ではないので、どのくらい世間に浸透していくのかはわからないが、小田香監督の作品を少しでも多くの人の目に触れる機会が増えることを願うばかりだ。

今年9月にはメキシコの泉で撮影した新作の『セノーテ』が日本でも公開になる予定だ。私もいまは劇場で見る機会が激減しているため、人のことはあまり言えないのだが、映画館では幸いまだコロナによるクラスターの発生は報告されていないので、皆さんには安心して劇場に足を運んでいただきたいと思う。

『鉱 ARAGANE』

©film.factory/FieldRAIN

監督:小田香 

製作年:2015年 

製作国:日本

撮影地:ボスニア・ヘルツェゴビナ

http://aragane-film.info/

セノーテ

©Oda kaori

・公開情報

  9月19日(土)~新宿K's cinemaにてロードショー

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