映画監督・蔦哲一朗の素晴らしき映画の世界|
Vol.10
監督:福永壮志
製作年:2020年
製作国:日本
監督:ヴァーツラフ・マルホウル
製作年:2019年
製作国:チェコ・スロヴァキア、ウクライナ
早いものでコロナと過ごした一年がもう終わろうとしている。いま話題の映画『鬼滅の刃』の大ヒットのおかげで映画館の興行は、だいぶ回復してきたように思われるが、年配層をターゲットにしているミニシアター系の映画はまだまだ本調子とはいかず、厳しい状況が続いているようだ。私も今年の鑑賞した本数はだいぶ少なくなってしまっているが、その中でもこれから徳島や四国で公開されるオススメ映画を紹介したいと思う。
©AINU MOSIR LLC/Booster Project
一つ目は、アイヌ民族のいまを描いた『アイヌモシリ』である。アイヌ民族といえば、それまで日本政府にうやむやにされてきた存在だったが、2019年の「アイヌ新法」の成立で初めて先住民族として公に認められたのも記憶に新しい。もちろん当事者の方々からすると、この新法にも色々と不満はあるのだろうが、今年オープンしたアイヌ文化施設「ウポポイ」や、漫画「ゴールデンカムイ」の人気もあり、少しずつではあるがアイヌ民族への関心が日本全体に広がりつつあるように私は感じている。
そして、偶然か必然なのか、今回紹介する『アイヌモシリ』もそんな流れに乗った、現代のアイヌ民族を映画にしたいま一番観るべきものの一つと言える。北海道の阿寒湖畔にあるアイヌコタン(集落)で生活する非俳優の方々をキャスティングして撮影した本作は、アイヌ民族として暮らしている方々の日常が描かれたドキュメンタリーに限りなく近い劇映画だ。アイヌ民族となると本来なら腫れ物に触れるような難しい題材ではあるが、本作は部外者が外から考えた綺麗事のメッセージ映画ではなく、制作者たちが大胆にもアイヌコタンの中に飛び込んでカメラを回し、アイヌの方々の赤裸々な想いを淡々と記録している。その中でも、14歳の主人公・カントが、アイヌ民の大人たちがジレンマの中で悩んでいる様子を見ながら、アイヌの血を受け継ぐ自分自身とも向き合い、アイデンティティーを確立しようとする姿が印象的だ。カントが抱いたこうした民族や人種の葛藤は、世界ではよく映画にされているが、私たち日本人は馴染みのない問題のように感じてしまいがちだ。私たち日本人は自分のルーツというものにあまり関心がないため、日本人が単一民族だと思い込んでいるところがあるが、実際には様々な経緯のDNAをもつ雑種だと最近では判明してきている。そんなこともあってか、この『アイヌモシリ』を観ていて、これは、アイヌ民族の方々だけに留まらず、これからの日本全体に向けられた自分たちの民族意識への目覚めと、多様性についての問題提起なのだと感じている。
©AINU MOSIR LLC/Booster Project
©AINU MOSIR LLC/Booster Project
また、それと合わせて本作は、アイヌ民族や様々な国の先住民たちが持っていたとされる“霊性”についても触れている。アイヌ民族のイオマンテ(熊送り)は、自然の神々に感謝の意を込めて、熊を殺してその魂を送り返す伝統儀式だが、明治以降あまり行われなくなっていた。そのイオマンテの復活についてや、カントが死の世界と繋がっているとされる穴の前で、今は亡き父親と再会したりと、文明の発達によって失われてきたこうした非科学的な魂や神々との再交流が描かれているのが、個人的には大変興味深い。
ちなみにだが、本作は、私が代表を務めるニコニコフィルムが配給した映画『リベリアの白い血』でアフリカの移民という日本人らしからぬテーマで鮮烈なデビューを飾った福永壮志監督の新作である。『リベリアの白い血』はいまインターネット上で配信されているので、ぜひ『アイヌモシリ』と合わせて、世界が注目する福永監督の作品に出会ってもらいたい。
@2019 ALL RIGHTS RESERVED SILVER SCREEN CESKA TELEVIZE EDUARD & MILADA KUCERA DIRECTORY FILMS ROZHLAS A TELEVIZIA SLOVENSKA CERTICON GROUP INNOGY PUBRES RICHARD KAUCKY
二つ目は、昨年のヴェネチア国際映画祭で話題となった『異端の鳥』を紹介したい。ただ、内容に関しては、特に私から語ることがないので、作品ホームページか予告編を見てもらえたらと思う。私のお薦めポイントとしては、本作が白黒35mmフィルム、シネマスコープサイズで撮影された映像に大変こだわった映画だということである。これについても本作のヴァーツラフ・マルホウル監督が以下のように語っている。
「35mmの白黒フィルム、1:2.35アスペクト比で撮影した。シネマスコープという画郭は、豊かに感情に訴えるフォーマットだ。他のフォーマットでは、このような正確さと力で、画面上に映し出される美しさと残酷さの両方を捉えることはできない。デジタル画像の品質は、特にその生々しさを失うため、感触としては古典的なネガを下回る。そして画の本質的な真実性と緊迫感をしっかりと捉えるために白黒で撮影した。」
この監督なかなかわかっとるやんけ、と同じくフィルムにこだわっている私からすると大変嬉しくなる文章であるが、その言葉通りにとても見応えの画力で169分の長尺映画であったが、飽きることなく楽しめた。
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本作は、徳島の北島サンシャインシネマで公開となるので、ぜひ劇場で皆さんにも白黒フィルム撮影の美しさを堪能してもらえたらと思う。