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映画監督・蔦哲一朗の素晴らしき映画の世界|

素晴らしき映画の世界|映画監督・蔦哲一朗のここだけの話! Vol.17

Vol.17


映画作成の途中経過を報告します。

いやぁ、WBC盛り上がりましたね。完全ににわかですが、準決勝のメキシコ戦と決勝のアメリカ戦の一番美味しいところは私も観ましたよ。日本が世界一になれるのも、やはり“甲子園”という文化が影響あることはもちろんなのだと思いますが、海外からするとこの甲子園を目指して野球に打ち込む少年たちの姿は軍隊のようで少し奇妙に見えるそうですね。私が逆に感じたのは、こんなに青春をすべて部活動に注ぎ込んでもメジャーで活躍する日本人は数名で、なんで中南米の面積や人口が日本よりだいぶ少ない国々があんなにメジャーで活躍する選手が多いのか不思議なんですよね。単純に体格の問題もあるのかもしれませんが、それがいま日本社会で課題になっている生産性・利益率の低さと繋がるような気はします。みんな頑張っているけど、空回りしている感じ。世界って、ホント必要最低限のものにエネルギー使うのが上手いというか、余計なことはあまりしない印象です。野球に限らずサッカーの試合を見ていてもいつもそれを感じます。

2023年5月24日(水) DVD発売決定!Amazon、楽天などの各ECサイトにて好評予約受付中!

https://youtu.be/u3m_5gSmvpU


と私のWBC感想はここまでにして、宣伝タイムです。WBCの日本活躍で海外から注目の日本の“甲子園”というものを題材にしたドキュメンタリー映画『甲子園:フィールド・オブ・ドリームス』のDVDが発売されることになりました!横浜隼人高校で監督を務める水谷哲也さんと球児たちを一年間追い、日本の高校野球の素晴らしさを世界の人々にも知ってもらうために製作した山崎エマ監督の渾身のドキュメンタリーです。そして何を隠そう、なんとあの大谷翔平くんも出演してくれています!

水谷監督は、徳島市立高校の学生時代に、私の祖父・蔦文也率いる池田高校野球部に夏の徳島予選で負けた悔しさと、その池高ナインが全国優勝する姿をテレビで見ていたという経験が今の監督人生に大きく影響されているそうです。教え子だけではなく、対戦相手にも大きな影響を与えてしまう祖父の偉大さを改めて感じた私です。そんな私もこのドキュメンタリーに一瞬だけ出演しておりますので、皆さんぜひ探してみてください。




ロケセットでナイター撮影。

雪が黒沢湿原にもなんとか降ってくれました。

で、ここからがこのコラムの本題です。今年に入ってから私は何をしていたかと言いますと、正月に娘たち家族と別れてから、私だけ徳島に居残って準備をし、2月前半にようやく新作「黒の牛」の残りの冬の撮影が再開しました。今回も東京や京都、そして台湾からキャスト・スタッフたちを三好市に迎えて、危険な山の雪道移動に苦労しながら黒沢湿原に上って撮影を続ける毎日を過ごしておりました。過酷な自然の寒さの中では体力が何度も奪われそうになりましたが、その度に徳島市内からわざわざカフェケストナーさんが温かいコーヒーを届けてくれたり、地元の方がラーメンやそば米雑炊を振る舞ってくれたのが心の支えになりました。その他にも、宿泊場所やエキストラ出演で今回も地元の皆さんに助けていただき、そのおかげもあって、冬もとても面白い映像をフィルムに収めることができたと思います。


地元・西祖谷の神代踊りの皆さんが出演してくれました。

神代踊りの撮影風景

地元の方々からそば米雑炊の差し入れいただきました!

体の中から温まります。

モニターで撮影した映像をチェック中。

徳島撮影クランクアップ!

そんな厳しくも楽しい徳島の冬の撮影を終えた私は、休む暇なく2月下旬には重要なシーンを撮るため、台湾で半野生的な牛たちを追いかけておりました。最初は、台北の陽明山で牛を撮影する予定でしたが、あいにく2日連続の雨。いつもは観光客の前にも姿を現してくれる牛さんたちは全く姿を見せません。私もさすがに諦めて帰ろうとしておりましたが、痺れを切らした助監督の滑川さんが突如、雨の森の中に入っていき、彷徨うこと1時間、木々の下で雨宿りする牛たちを見事見つけてきました。しかし、フィルムのカメラを持っていくには難儀なため、牛が移動するのを期待して待機。お昼を食べながら待って、ようやく牛が草原のところに出たタイミングでカメラをセッテングしようとしたら、雨風が強くなり、牛も遠くに移動。仕方なくスタッフたちも重い機材を背負子で担いで、牛を追って、丘を登りましたが、牛たちは私たちを嘲笑うかのように、霧の中に消えていきました。

台湾だよ、全員集合!は予算的に実現せず。

霧雨の中、ひたすら牛を探すスッタフたち。

狙った獲物を逃したのは私の20年の映画人生でも初めてのことで(たぶん)、とてつもない敗北感を味わうことになりましたが、スタッフはひとまず台北を後にし、第二の目的地である花蓮に移動しました。花蓮では牛たちが海岸沿いに半野生的に飼育されており、海と牛という珍しい組み合わせを見ることができます。花蓮では天候にも恵まれ、牛の持ち主であるアミ族の方が撮影に協力してくださったおかげもあり、予定の3日間とも順調に撮影をすることができました。いままだ編集中ですが、この花蓮のカットが映画のラストなる可能性は高いような気はしておりますので、ご期待ください。

牛さんに見つからないように、フィルムチェンジ。

アミ族の牛飼いさんが撮影に協力してくれました。

外で食べる原住民料理は最高でした!

そして、最後に一行は台湾の西にある澎湖島に移動して、そこから更に高速船をチャーターして、東嶼坪という離島にやってきました。前回のコラムでもお伝えしましたが、この島にはマチュ・ピチュ遺跡のような石垣が島全体に残っており、人類が滅んだ世界のようで、とてもノスタルジックな気分にさせてくれます。ここに牛さんを別の島から手配して、牛さんだけがいる世界を表現したカットを撮影する予定でしたが、牛さんがなかなか言うことを聞いてくれません。そもそもなんで何の訓練もしていない牛が言うことを聞いてくれると思っていたのか昔の自分に問いただしたいものです。牛さんに翻弄されながらも、絶景のこの島での撮影を2日間行い、70mmフィルムに合った壮大な画を沢山撮ることができました。そう、言い忘れておりましたが、今回のこの台湾撮影で、私ども撮影スタッフは、日本長編映画で初となる70mm(ネガは65mm)フィルムでの撮影に挑戦し、見事最後までやり切ることができました。現在、アメリカで現像とスキャニングをしてもらった画が上がってきたものを編集しておりますが、期待以上のスケール感です!ぜひこの画を劇場の大きなスクリーンで皆様に見てもらいたいと思っております。実は日本でいま70mmフィルムが映写できるのは、東京・京橋になる国立アーカイヴさんだけです。他にも上映できる方法はないか現在探っておりますので、こちらも朗報をお待ちください。

マチュピチュを彷彿とさせる石垣たち。

徳島編に続き、牛担当の助監督・滑川さんと朝日。

撮影風景です。

最後に台北に戻り、主演の李康生さんと記者会見を開いて、移動含めて合計12日間となる台湾撮影ツアーが終了となりました。記者会見では、台湾語で「私は蔦です」という挨拶をしました。どうやら蔦(ニャオ)はイントネーションを間違えると小便という意味になるらしく、「私は小便です」とわざと間違えての茶番を披露しましたが、会場はややウケくらいの反応でしたww。

クリストファー・ノーラン監督の映画で使用されたフィルムの空き缶に遭遇!


台湾にて記者会見。

島で唯一の宿泊施設を営むご夫婦。

こうして、コーディネートしてくれたプロデューサーの黄さんチームを含めて、台湾の方々のお力添えで無事に「黒の牛」の台湾撮影をやり切ることができ、日本に帰国した私ですが、娘たちとの安らぎの時間もほどほどに、その翌週にはまた別の短編映画のためにドタバタと撮影。(これについてはまた後日)その週末にはあわぎんホールで開催された徳島ニューノーマル映画祭で「雨の詩」の上映のため、再び徳島へ。主役のテラさんこと寺岡弘貴さん(普段は農家さん)と一緒に舞台挨拶をし、そのまま息つく暇もなく四国放送ラジオに移動。「祖谷物語」の時からお世話になっている梅津龍太郎さんの番組に出演させてもらい、その後は、またすぐに文化の森で開かれている鳥居龍蔵のフォーラムを見学。鳥居龍蔵は日本を代表する人類学者の一人です。徳島出身でもあり、実は私の次回作でどうかな、と今色々勉強しております。台湾やモンゴル、樺太など日本周辺のあらゆる場所でエネルギッシュに発掘調査を行い、日本人のルーツについて研究した人物ですが、このゲノムで自分のルーツがわかる時代だからこそ、鳥居龍蔵の功績は再確認されてきているように感じております。高知が牧野富太郎なら、徳島は鳥居龍蔵!これから絶対再注目される人物ですね。

テラさんと四国放送ラジオに出演。

須森隆文さんと舞台挨拶。

そして、その翌週には、「雨の詩」の名古屋公開で、いつもお世話になっているシネマスコーレさんへ。こちらは、もう一人の主役である須森隆文くんと一緒に、名古屋の温かい皆さんに見守られながら舞台挨拶をして、この日もゆっくりすることなく、日帰りで東京。という忙しいけど充実した3ヶ月でした。

名古屋のシネマスコーレさんの前で。

今は、「黒の牛」の夏の完成を目指して編集中ですが、公開は来年になりそうかもです。今年はひとまず、国内外の映画祭へ出品して、オリジナル作品のこの「黒の牛」が世界でどう観られるのかを確かめたいと思います。ラストスパート、丹精込めて、最後の作業に取り掛かって参ります!