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素晴らしき映画の世界|映画監督・蔦哲一朗のこれおすすめです!

素晴らしき映画の世界|映画監督・蔦哲一朗のこれおすすめです! Vol.7

日本中が湧いた令和元年が終わり新しい年がスタートした。

 

昨年はいくつもの素晴らしい映画が公開されたが、その中でもっとも鮮烈な「闇」を放った映画、『ジョーカー』を今年最初の映画としてとり上げたい。

ジョーカー

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『ジョーカー』
2020年1月8日(水)デジタルセル先行配信開始
2020年1月29日(水)ブルーレイ&DVDリリース
■【初回仕様】ブルーレイ&DVDセット(2枚組/ポストカード付) \4,980(税込)
■【初回仕様】<4K ULTRA HD&ブルーレイセット>(2枚組/ポストカード付) \ 6,980(税込)
■ブルーレイ&DVDレンタル、デジタルレンタル同日開始
ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
TM & (c) DC. Joker (c) 2019 Warner Bros. Entertainment Inc., Village Roadshow Films (BVI) Limited and BRON Creative USA, Corp. All rights reserved.
※R-15:本作には、一部に15 歳未満の鑑賞には不適切な表現が含まれています。

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アメコミ映画『バットマン』シリーズで、もっとも人気の高いヴィラン(敵)である、ジョーカーの誕生を描いた本作は、今やアメコミの顔になった、『アベンジャーズ』、『スパイダーマン』、『X-MEN』のマーベルコミック映画シリーズのヒーロー達を嘲笑うかのように映画界に凶弾を打ちこんだ。

 

世界三大映画祭のひとつ、ヴェネチア映画祭という芸術映画が対象となるコンペ部門で、史上初のアメコミ映画がグランプリをとり、米アカデミー作品賞も確実と言われるのは、本作がエンターテインメント作品ではなく、芸術作品として認められている証しなのだが。

ではなぜ、これが芸術なのかを示したい。

現在の映画はもとより、芸術が失ってしまったものがなんなのか?現在の映画では、悪人が主人公になることはまれである。そう、ジョーカーも最初は悪人ではなかったのだ。

 

ジョーカーになる前のアーサーは、大道芸人としてピエロを仕事として、人を笑わせることを生きがいにしている。道端で芸を披露するも、悪ガキにいたずらされ、暴力をふるわれる。冒頭から痛ましい登場である。映画の舞台であるゴッサムシティには暴力と腐敗がうずまいている。ここで、ジョーカーになるアーサーがこの時点で少年よりも無力であることがわかる。さらに、アーサーはこころにストレスがかかると笑ってしまう病気を抱えていることで、ジョーカーの高笑いの起源が描かれる。アーサーは精神を病んでいる。彼は不幸せな男であり、妄想と狂気に苦しんでいる。

 

そう、今の芸術が失ってしまったものは狂気である。

21世紀では、エンターテイメントが一大隆盛を極めており、芸術は過去の遺物として片隅においやられている。そんなエンタメ時代において、『ジョーカー』によって復活した芸術は二つある。

それは、「アメリカン・ニューシネマ」と「日本の純文学」である。

 

本作のトッド・フィリップス監督も語っているが、『ジョーカー』はアメリカン・ニューシネマの影響を色濃く受けている。あの時代の映画は娯楽であり、芸術であった。いつの時代も、どの社会にも腐敗と暴力は存在していて、そこで生きぬく人間の心情と行動が残酷に美しく描かれていた。『タクシードライバー』『カッコーの巣の上で』『真夜中のカーボーイ』『狼たちの午後』、どれも孤独で愚かな男たちが奮闘する姿があった。そして、極限の状態に置かれた人間の心理を視覚化していた。

 

では、なぜ視覚化できたのか?それは至極当たり前のことだが、真に迫る役者の演技があったからだ。ロバート・デ・ニーロ、ジャック・ニコルソン、ダスティン・ホフマン、アル・パチーノ、映画に焼き付けられた名優たちの魂が、ジョーカーを演じるホアキン・フェニックスによって蘇っている。

 

映像技術がどれだけ進化をしても、人間の感情と心理を視覚化できるのは生身の役者の肉体でしかないのだ。映画において、ホアキンが演じるアーサーの顔、身体は憐れむべきさびしさのだ。そして、またどこかかっこいいのだ。はたして、演技はこの半世紀でどれだけ進化をしているだろうか?

 

『ジョーカー』は過去の名作をオマージュして蘇らせただけではない、アメリカンニューシネマの主人公たちが社会から儚く消える悲しい結末とは違い、この『ジョーカー』ではラストで異色の「光」を放つのだ。

そう、それは妄想だけが生み出すことのできる、美しく、おもしろいジョークなのだ。

 

もうひとつ、蘇った芸術は日本の純文学である。アーサーが現実と妄想に引き裂かれる姿を観ているとき、私の頭にはいくつかの文学作品が浮かんでいた。それは夏目漱石の『こころ』、三島由紀夫の『金閣寺』、芥川龍之介の『或阿呆の一生』などの物語だ。特に、生い立ちや才能に苦悩し、自殺した芥川自身の人生にもジョーカーは重なる。昔の日本文学は人物の精神がいくつかのできごと経て緻密に崩壊していく。文豪自身が脳内の狂気を文字で視覚化していた。誰にも見えない孤独と狂気を芸術表現のみがすくいあげることができたのだ。

救いようのないアーサーを見て、救われる観客が、どこかに存在している。

 

笑いながら涙をにじませるアーサーの顔には、人間という生き物だけがもつ、もっとも痛ましい感情である「狂気」が露われている。日本のみならず、かつての文学は、それを明らかに表出していたのだ。

他人の生み出した妄想を見ることによって、狂気が伝染するのが芸術の本領であり、真骨頂なのだ。

 

最狂にして最強の悪人、ジョーカーによって、芸術は闇に包まれて、光を放つ。その狂気の復活をスクリーンで観ることをお勧めする。

闇を描いた映画のあとに、精神のバランスを保つためにもう一本、『ジョーカー』の対極にある妄想映画をお勧めする。それは『イエスタデイ』だ。

イエスタデイ

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『イエスタデイ』大ヒット上映中
 (c)Universal Pictures

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「もしも、ビートルズの歌を、世界で自分だけが知っていたら」という、とてつもなく楽しい妄想を現実化させた映画である。

 

こちらは『ジョーカー』と違い、エンターテインメントの極みに達している。売れないひとりのミュージシャンがビートルズの名曲の数々を自分の作品として世間に披露し、人々を熱狂させ、どんどんビックになっていく姿は、まさに夢物語で最高のジョークである。ビートルズの数々の歌がいかに独創的であり、今でも万人の感性を幸福にしているかが実感できる映画だ。こんな無茶な設定を違和感なく観れるのは、何より楽曲の再現性がすばらしいからだ。主人公を演じる、ヒメーシュ・パテル自身が実際に歌い、演じている。有名スターではなく、オーディションによって選ばれた彼の歌声は、ビートルズという「光」を見事に再現している。まさに、映画館の音響システムで聞くにふさわしい作品なのだ。

 

闇の『ジョーカー』と光の『イエスタデイ』、対極的な作品だが、ぜひ、どちらもまだ映画館で鑑賞する機会があれば、見逃さないでほしい。映画は光と闇があってこその芸術である。

 

2020年も劇場で映画をお楽しみください。

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